意図しないドーピング(うっかりドーピング)を防止しよう 選手・コーチなど一般の方向けページ
このページではアンチ・ドーピング、特に「意図しないドーピング(うっかりドーピング)」による違反者を出さないために、選手、コーチ、トレーナーなどを対象とした、情報提供をしています。
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アンチ・ドーピングについて
ドーピングとは
ドーピングとは競技力を高める為に薬物などを使用したり、それらの使用を隠したりする行為であり、 アンチ・ドーピング規則違反に該当する行為はアンチ・ドーピング規程(世界アンチ・ドーピング規程)に定められています。
- ドーピングによって選手は健康を害する恐れがあります。(オリンピックの競技中に死亡した例もあります)
- ドーピングは社会的にも悪影響を及ぼします。例えば、子供は憧れの選手のまねをしますが、もしその選手がドーピングをしていたらどう思うでしょうか?
- スポーツはフェアな戦いであるからこそ、勝利者は賞賛を浴びます。ドーピングを許してしまうとフェアプレーの精神に反し、スポーツの価値を否定していることになります。
以上の理由でドーピングは禁止されています。
アンチ・ドーピング規則違反は、ドーピング検査で(検体に)禁止物質の痕跡が認められればどんな理由があっても違反となります。従って、不注意による「うっかりミス」であっても制裁の対象となります。
アンチ・ドーピングの基礎知識
【禁止物質・禁止方法】
禁止物質・禁止方法は世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表に定められています。
禁止表は、最低でも1年に一度、毎年1月1日に更新され、原則12月31日まで有効です。その年の途中で更新される場合もありますので、最新版の禁止表を確認する必要があります。
◆禁止物質
3つに分類されます。
1. 常に禁止されている物質 (使ってはいけない)
2. 競技会において禁止される物質 (競技大会中だけ禁止)
3. 特定の競技において禁止される物質 (該当競技以外の選手は使ってOK)
2、3のように、いつも薬を使用してはいけないわけではありません。しかし、自分の薬がどれに該当するか、また使用して良い時期なのか、などの判断は専門家でないとわからないと思いますので、必ず薬を使用する前に医師やスポーツファーマシストへ相談してください。(→ホットライン)
禁止物質でも使用可能な場合があります(→TUE(治療使用特例))
◆禁止方法
禁止方法とは、「輸血」「ドーピング検査時の尿のすり替え」「遺伝子ドーピング」「治療目的以外の点滴※」などが該当し、常に禁止されています。
(※入院設備を有する医療機関での治療およびその受診過程、外科手術、又は臨床検査のそれぞれの過程において正当に受ける場合は除く。)
登録された採取センター(日本赤十字社献血センターなど)での血漿成分献血は禁止ではなくなりました。
→詳しい内容は「ホットライン」または「スポーツファーマシスト」に確認してください。
ドーピング検査手順
実際に行われるドーピング検査手順については、JADAのホームページ(アスリートサイト) をご参照ください。
禁止物質
禁止物質について
ドーピング禁止物質といえば、「男性ホルモン」、「筋肉増強剤」や「ステロイド」などが思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか? 実は、病院で医師から処方される医療用医薬品や薬局、ドラッグストア等で購入できる市販薬(OTC薬)にも広く含まれています。また、サプリメント(特に海外製品)にも含まれていることがあり、注意が必要です。(→アンチ・ドーピング規則違反の事例)
特に注意が必要な薬の種類を次にあげます。
必ず薬を使用する前にスポーツファーマシストなど薬剤師へ相談してください。(→ホットライン)
【医療用医薬品】
- 風邪薬、咳止め
- アレルギーの薬、花粉症の薬
- 喘息治療薬
- 無月経、子宮内膜症の治療薬
- 難聴やめまいの治療薬
- 低血圧を治療する薬
- 高血圧を治療する薬(特に配合薬)
- 不整脈の薬
- インスリン
- 漢方
トラマドールが2024年から禁止物質になりました
2024年1月から、トラマドールという成分が含まれる薬は競技会(時)禁止(S7.麻薬)となりました。治療目的で使用する場合TUEの申請が必要です。ウオッシュアウト期間は24時間です。
お薬手帳について
お薬手帳を有効に活用しましょう。
処方箋により調剤された薬でも100%安全とは言えません。
内服薬、外用剤どちらにも違反物質を含むお薬があり、貼り薬によるアンチ・ドーピング規則違反事例も毎年のように報告されています。
お薬手帳にアスリートであることを目立つように記載しておくと、医師や薬剤師も気付きやすくなり意図しないドーピング規則違反を防げます。
いつ、どのロット(製造番号)の薬を貰ったのかを薬剤師に手帳に記載してもらうことで、意図しない違反時の証拠になることもあるでしょう。
また、市販薬(OTC薬)やサプリメントを購入服用した場合にも、お薬手帳にいつどんなものを摂取したかを記録しておきましょう。
【市販薬(OTC薬)】
- 風邪薬(総合感冒薬)
- 鼻炎、花粉症の治療薬
- 咳を止める薬
- 胃薬
- 痔疾患用の外用薬(坐薬など)
- 体毛を濃くする塗り薬
漢方薬(生薬)について
生薬は、天然物の一部を加工(干すなど)して作られており、いくつかの生薬を組み合わせてできたものが漢方薬です。
漢方薬は自然のものからできているので問題ないと思っている方もいるかもしれません。それは大きな間違いで、漢方薬を構成する生薬の中には、明らかに禁止物質を含むものがあります。
その代表例に麻黄(マオウ)、ホミカ(ストリキニーネを含む)、滋養強壮薬に用いられる海狗人(カイクジン)や麝香(ジャコウ)が挙げられます。つまり、このような生薬を含む漢方薬は禁止物質を含むので使用できません。
では、禁止物質を含まない生薬は大丈夫なのでしょうか?
生薬は動植物や鉱石など天然物から由来していますので、主成分(薬効を持つ主な成分)はわかっていても、生薬に含まれるすべての成分が明らかなわけではありません。また、生薬の産地、栽培方法、収穫時期などで含有成分が変わるともいわれており、生薬には不明な成分が含まれている可能性が十分あります。従って、明らかにされている含有成分には禁止物質を含まない生薬であっても、禁止物質を含まないと保証することはだれにもできず、「絶対大丈夫」と確証を得ることは難しいのです。
市販薬の中には、西洋薬(人工的に化学合成された物質)と一緒にカタカナ表記で生薬を含んでいる場合がありますので注意してください。心配な場合は、スポーツファーマシストにお問い合わせください。
サプリメントについて
必要な栄養素は日々の食事から摂取するのが基本です。
サプリメントは医薬品とは異なり食品に分類されるので、含有成分が商品表示にすべて記載されているわけではありません。表示されていない禁止物質を含むものもありますので、表示成分だけを見て「大丈夫」と判断するのはとても危険です。
(→アンチ・ドーピング規則違反の事例)
特に、①筋肉増強、②脂肪燃焼、③痩身(やせること)などを目的とするサプリメントは、注意が必要です。
なぜなら、
①には蛋白同化ホルモン(男性ホルモン)、
②には、エフェドリン(エフェドラ)、
③には利尿薬・エフェドリン
などの禁止物質が表示されていないのに含まれていたという報告があるからです。
しかし、サプリメントのすべての含有成分を明らかにすることは困難なため、サプリメントに禁止物質が含まれていないか明確な答えを出すことは誰にもできません。あくまでも「自己責任」で摂取することになります。実際にサプリメントから違反物質が検出されたアンチ・ドーピング規則違反事例が発生しています。
サプリメントの様々なアンチ・ドーピング認証を見かけますが、どれも安全を100%保障しているものではありません。
食事以外にサプリメントを摂られる方は、サプリメントでのドーピングの防止対策として、手元に証拠として検査結果が出るまで保管・ロットを控える、いつからいつまで摂取したか等を記録しておくことをお勧めします。
詳しくはスポーツファーマシストなど薬剤師にご相談ください。
アンチ・ドーピング規則違反の事例
競技種目 違反内容 制裁内容 原因(医療用医薬品・市販薬・サプリメント・その他)
2014年度~2023年度までのアンチ・ドーピング規則違反事例をまとめました。
(JADAホームページ、アンチ・ドーピング規律パネル決定報告、各競技団体HP、選手所属チームHPより抜粋)
№ | 発生年 | 検出物質/違反内容 | 制裁内容 | 競技種目 | 原因 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2023年度 | プレドノゾロン プレドニゾン | 競技成績の失効 資格停止3ヶ月 | 陸上競技 | 海外医薬品 |
2 | ナンドロロン | 競技成績の失効 資格停止3年間 | 陸上競技 | ||
3 | メルドニウム | 競技成績の失効 資格停止3年間 | 自転車 | ||
4 | トリメタジジン | 競技成績の失効 資格停止3年間 | 陸上競技 | ||
5 | 第2.6.1項違反 テストステロン トレンボロン インスリン様成長因子 | 資格停止3年間 | ボディビルディング競技 | 禁止物質の所持 | |
6 | 日本規定第5.6.1項違反 | 競技成績の失効 | フィギュアスケート競技 | 競技復帰の手続き不備 | |
7 | 2022年度 | 19-ノルアンドロステロン 19-ノルエチオコラノロン | 競技成績の失効 資格停止3年間 | 陸上競技 | |
8 | トレンボロン代謝物 | 競技成績の失効 資格停止3年間 | ボディビルディング | ||
9 | 2021年度 | オスタリン | 競技成績の失効 資格停止5ヶ月 | ラグビー | サプリメント |
10 | 2020年度 | 19-ノルアンドロステロン 19-ノルエチオコラノロン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | 陸上競技 | |
11 | フロセミド | 競技成績の失効 資格停止2年間 | ボクシング | 医療⽤医薬品 | |
12 | 2019年度 | エノボサルム (オスタリン) | 競技成績の失効 資格停止4ヶ月 | 水泳 | サプリメント |
13 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止2年 | ボート | 医療用医薬品 | |
14 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止10ヶ月 | 空手道 | 医療用医薬品 | |
15 | 2018年度 | メタンジェノン クロミフェン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | 自転車 | |
16 | アセタゾラミド | 競技成績の失効 | レスリング | 医療用医薬品 | |
17 | ビランテロール | 競技成績の失効 資格停止6ヶ月間 | 自転車 | 医療用医薬品 | |
18 | クロミフェン | 競技成績の失効 資格停止2年間 | ボディビル | ||
19 | クロミフェン | 競技成績の失効 資格停止2年間 | 陸上競技 | サプリメント | |
20 | メテノロン ボルデノン クロミフェン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | パワーリフティング | ||
21 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止3ヶ月 | ハンドボール | 医療用医薬品 | |
22 | 2017年度 | 1.3-ジメチルブチルアミン | 競技成績の失効 資格停止7ヶ月間 | 水泳 | サプリメント |
23 | メタンジェノン | 競技成績の失効 | カヌー | ||
24 | クレンブテロール メチルエフェドリン | 競技成績の失効 資格停止1年8ヶ月間 | レスリング | 医療用医薬品 | |
25 | 禁止物質の投与 ※ | 競技成績の失効 資格停止8年間 | カヌー | ||
26 | メテノロン | 競技成績の失効 資格停止1年3ヶ月間 | 陸上 | 医療用医薬品 | |
27 | プレドニゾロン プレドニン | 競技成績の失効 資格停止1年3ヶ月間 | フェンシング | TUE違反 | |
28 | 2016年度 | ドロスタノロン クレンブテロール | 競技成績の失効 資格停止3年9ヶ月間 | ボディビル | |
29 | メタンジエノン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | ボディビル | ||
30 | 1-テストステロン 1-アンドロステンジオン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | ボディビル | サプリメント | |
31 | メチルヘキサンアミン | 競技成績の失効 譴責のみ | フットボール | サプリメント | |
32 | 1-テストステロン 1-アンドロステンジオン | 競技成績の失効 資格停止4ヶ月間 | 自転車競技 | サプリメント | |
33 | 2015年度 | オキシロフリン β‐メチルフェネチルアミン | 競技成績の失効 資格停止8ヶ月間 | ソフトボール | サプリメント |
34 | ドロスタノロン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | パワーリフティング | サプリメント | |
35 | デヒドロクロロ- メチルテストステロン | 資格停止8年間 | ボディビル | ||
36 | メチルエフェドリン | 競技成績の失効 資格停止8ヶ月間 | 陸上競技 | ||
37 | 日本アンチ・ドーピング規定24項違反 | 資格停止4年間 | ボディビル | 居場所情報提出 義務違反 |
|
38 | オキシロフリン | 競技成績の失効 資格停止2年間 | ボディビル | サプリメント | |
39 | メタンジエノン | 競技成績の失効 資格停止4年間 | パワーリフティング | 一般用医薬品 | |
40 | オキシロフリン | 競技成績の失効 資格停止2年間 | ボディビル | サプリメント | |
41 | 2014年度 | カンレノン | 競技成績の失効 資格停止3ヶ月間 | バレーボール | 医療用医薬品 |
42 | メチルエフェドリン | 競技成績の失効 資格停止3ヶ月間 | パワーリフティング | ||
43 | メチルテストステロン | 競技成績の失効 資格停止2年間 | ボディビル | ||
44 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止3か月間 | ラグビーフットボール | 医療用医薬品 | |
45 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止2カ月間 | バレーボール | 医療用医薬品 | |
46 | ツロブテロール | 競技成績の失効 資格停止3ヶ月間 | 自転車競技 | 医療用医薬品 |
※ 故意に禁止物質をライバルに投与したため
TUE(治療使用特例)について
治療使用特例(Therapeutic Use Exemptions : TUE)は、禁止物質・禁止方法を治療目的で使用したい場合、医師に必要事項を記載してもらった書類を添えて競技者が申請をする手続きです。認められれば、その禁止物質・禁止方法が使用できます。
TUEは、世界アンチ・ドーピングプログラムの中のアンチ・ドーピング規程(世界アンチ・ドーピング規程)とそのTUE国際基準(ISTUE)で手続きが定められています。参考資料としてガイドラインとMedical Information to Support the Decisions of TUECs が世界アンチ・ドーピング機構(WADA)によって提供されています。
(http://www.wada-ama.org/)
世界規程とISTUEの和訳は(公財)日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のホームページ(http://www.playtruejapan.org/)からダウンロードできます。
禁止物質・禁止方法は、最新の『禁止表国際基準』を参照してください。最新の国際基準の和訳はJADAのホームページ(http://www.playtruejapan.org/)からダウンロードできます。
「アンチ・ドーピングと医療-2024年版-」(日本アンチ・ドーピング機構)を加工して作成
スポーツファーマシスト
スポーツファーマシストとは・・・
スポーツにおけるアンチ・ドーピング活動を積極的に支援しています。
ドーピング検査対象者やスタッフにとって、強い味方となるでしょう。
スポーツファーマシストの定義
(スポーツファーマシストのホームページより)
公認スポーツファーマシストは、最新のドーピング防止規則に関する正確な情報・知識を持ち、競技者を含めたスポーツ愛好家などに対し、薬の正しい使い方の指導、薬に関する健康教育などの普及・啓発を行い、 スポーツにおけるドーピングを防止することを主な活動とします。薬剤師の資格を有し、所定の課程を修めた方が、(公財)日本アンチ・ドーピング機構より認定される資格制度です。
近くのスポーツファーマシストを探すには
スポーツファーマシスト検索サイト
http://www3.playtruejapan.org/sports-pharmacist/search.php
スポーツファーマシスト在籍施設
こちらのステッカーが目印です。
詳しくは
公認スポーツファーマシストのホームページ
http://www.playtruejapan.org/sportspharmacist/index.html
薬やサプリメントを使用するときには十分気をつけましょう!
薬が必要なときは、使う前にドーピングをまず意識し、わからなければ、スポーツファーマシストなど薬剤師に必ず相談してください。(→ホットライン)
薬剤師会アンチ・ドーピングホットライン
原則、専用用紙をFAXでお送りください。
平日 9時から17時までの受付となります。
公益社団法人 東京都薬剤師会 薬事情報課
FAX 03-3295-2333
TEL 03-3295-9532
JADAへの問い合わせ
JADA(日本アンチ・ドーピング機構)では、ドーピングに関する問い合わせを受付けています。
リンク:https://www.playtruejapan.org/faq/
リンク
- JADA(日本アンチ・ドーピング機構)
- Sportspharmacist
- global DRO(アメリカ、カナダ、イギリス、スイス、オーストラリア、ニュージーランド、日本の7カ国で運営されているグローバルな薬の検索システムです。薬の製品名や成分名から、その薬が禁止表に記載された成分を含んでいないか確認できますので、アスリート自身がいつでも手元にある薬の使用の可否を確認することができます。)
- 日本薬剤師会
- 日本スポーツ協会 アンチ・ドーピング
- JAPAN SPORT COUNCIL(日本スポーツ振興センター)
公益社団法人 東京都薬剤師会 アンチ・ドーピング委員会