使用済み注射針回収事業

注射は医療行為であり、原則的には医師や看護師などの有資格者のみが行える行為です。 しかし、長期にわたって頻回の注射が必要な薬剤(たとえばインスリン製剤)ごとに、患者の利便性の向上という利点と病状の急変や副作用への対応の遅れという問題点等を総合的に勘案して、自己注射は、昭和56年、限定して認められました。

当初はインスリン製剤とヒト成長ホルモンのみでしたが、今では自己注射が認められる薬剤は35成分にのぼり、その他在宅医療で用いられる中心静脈栄養法に用いられる輸液及びこの輸液に延長カテーテルで連結して投薬できる19成分及び自己連続携行式腹膜灌流用灌流液が認められています。

自己注射が認められている薬剤ではインスリン製剤が圧倒的に多く、自己注射している人は全国で80万人に上ると推定されています。この自己注射に用いられる注射針は、万年筆型の注射筒に容易に装着できる1回ごとに使い捨てるもので、この使用済み注射針によるゴミ回収作業員の針刺し事故が発生しています。

この針刺し事故をなくし、適正で安全な廃棄処理のため、都内の各薬剤師会では、インスリン製剤等の自己注射に用いられた使用済み注射針を次のような手順で薬局が患者から回収し、地区薬剤師会が運営する医薬品管理センターに集積して適正に廃棄処理しています。

(1)薬局は患者が注射針を購入する際に、使用済み注射針を入れる専用の回収容器等を配布します。
(2)患者は、使用済み注射針の入った回収容器を、注射針を購入した薬局へ持参します。
(3)薬局は、地区薬剤師会が運営管理する医薬品管理センターに、保管していた使用済
み注射針の入った回収容器を持ち込みます。
(4)薬局から持ち込まれた回収容器は、医薬品管理センターで集積され、特別管理産業廃棄物処理業者へ収集運搬・処分を委託され適正処理されます。

当会では、この組織的な仕組みを平成14年度にモデル事業として開始し、平成17年度末には都内全域に広めました。本システムを構築したことにより、区市町村の一般ごみ回収に従事する作業員の針刺し事故はほとんどなくなりました。なお、長年の事業継続に対して、平成25年に第65回保健文化賞を受賞しました。
また、団塊の世代が75歳以上となる2025年を前にして、包括的ケアシステム構築を国は強力に推進しています。したがって、今後、在宅で療養する患者さんに用いられる医療廃棄物の適正で安全な処理が課題として急浮上しています。