くすりの説明書とおくすり手帳
加藤さんはこれで重複投与を防ぎました
加藤さんは高血圧の治療を受けています。普段から朝夕の血圧測定とおくすりの記録は欠かしません。ある日、薬局に現れた加藤さんは「今日は腰が痛くて痛くて、先生にそう言ったらおくすりが2つ増えました」と処方せんをヒラヒラさせていました。早速、薬剤師が増えたおくすりの説明をしながら加藤さんの手帳に書き込んでいます。
さてその日の午後のことです。加藤さんは腰痛を診察してもらいに整形外科に行きました。加藤さんの訴えを聞いた医師は2種類のおくすりを処方してくれました。処方せんを見つめていた加藤さんは首をかしげながら手帳を出して医師に見せたのです。
「先生、私、今朝、内科のお医者さんからこのくすりもらったんですけど。」
手帳を見た医師は笑って言いました。
「加藤さん。これは今、ボクが処方したおくすりと全く同じですよ!」
同じおくすりを2倍飲んでしまうと一度に身体の中のおくすりの量が増えて副作用が現れたりします。違う医師から同じ名前のおくすりが処方されたのでしたら気がつきますが、成分が同じでも違う名前を持つおくすりはたくさんあるのです。診療科は違っても同じおくすりを使うことがあります。診察を受ける前にぜひ医師におくすりの記録を見せてください。
つかはらさんの愛用胃腸薬
塚原さんは愛用の胃腸薬があります。今日は勤務先の近くの歯科医院にいった帰りに薬局にそのくすりを買いに行きました。薬局の薬剤師に「他におくすりをお飲みですか」と尋ねられたので、さっき歯科医院でもらったばかりのくすりを見せたのです。
「あぁ、このおくすりはタリビッドという抗菌剤です。ある種の胃腸薬と一緒に飲むと効き目が落ちてしまうのです。塚原さんのいつもお買いになる胃腸薬もそのタイプですね。他のタイプの胃腸薬になさるか、タリビッドを飲んでから2時間くらい時間を空けて胃腸薬を飲んでください。」
そう言って薬剤師は塚原さんにおくすり手帳を作ってくれました。
おくすりには相互作用といって、一緒に飲むと効き目が強くなって思わぬ副作用が出てしまったり、反対に効き目が弱くなってせっかく飲んでいるおくすりが無駄になるばかりか、病気が悪化したりします。
相互作用は、同じ種類のおくすりの間だけで起こるのではありません。全然効き目の違うおくすりの間でも起こるのです。医師から処方されたおくすりと、一般薬として薬局・薬店で売られているおくすりの間でも起こります。
チェックは専門家にまかせたいところです。おくすり手帳におくすりの名前の記載があれば、医師と薬剤師の2重チェックが受けられますね。
薬剤師も腰を抜かす"あっぱれ"患者さんの勝利
絹子さんは、つつましい老婦人です。普段から最近の若い女性はなんでもズケズケ言って「はしたないわ」と思っています。そんな絹子さんに、言いたいのに言えない悩みがありました。実はおくすりが大きすぎて飲みにくいのです。でも、「お医者さまがせっかく出してくれたんだし、薬局の薬剤師さんは親切におくすり手帳まで作ってくれたのだし..」と遠慮していました。
「そうそう薬剤師さんは"身体の調子や他に飲んでいるおくすりのことなど、何でも書いておかれるといいですよ"って言ってたわねぇ」 そこで、絹子さんは一計を案じました。おくすり手帳につつましく
「今日もおくすりが大きくてむせてしまった」
と書いておいたのです。
次に薬局に行ったとき、絹子さんの手帳を見た薬剤師は「おくすりが飲みにくいのですね。ちょっと待っていてください。」と言って医師に電話をかけてくれました。
「おくすりの形が変わりました。同じおくすりなんですが、小さい粒が2つになりました。これで試してくださいね。」
絹子さんは"やったー"と思いましたが、すぐにちょっとはしたなかったかしら、と反省しました。